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東京地方裁判所 昭和29年(ワ)3126号 判決 1956年9月14日

原告 財団法人国際文化学会

被告 国

訴訟代理人 鰍沢健三 外三名

主文

原告の請求は棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は、「東京都港区赤坂一ツ木町三十六番の一(もと同所五十六番という。)土地のうち別紙図面表示の赤線で囲んだ部分七百七十五坪七合一勺(以下本件土地という。)は原告の所有であることを確認する。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、その請求の原因として、本件土地はもと被告の所有であつたところ、原告は昭和二十八年二月二十二日被告に対し右土地の払下を申請したが、被告から右申請手続に不備があると指摘されたので、同年十月三日追加申請書を提出してその払下方を求め、その後被告の担当係官と右払下代金の件で交渉を重ねたが、被告は右払下予定価格を坪当り金八千八百円とすることを主張し、原告はその減額方を申出で、その解決が遷延していたところ、原告は被告から昭和二十八年一二月一日附「国有財産の売払について」と題し「貴殿から本件土地の売払申請があつたので、去る同年十月三十日その売払予定価格を内示したが、未だにその価格をもつて買受の回答がありませんが、きたる同年十二月十日までに回答して下さい。」と記載した交書(甲第二号証)をもつて本件土地を代金坪当り金八千八百円で売払う旨の申込を受けたので、同年十二月四日附書面(甲第三号証)をもつて被告に対し右申込の承諾をし、右書面はその頃被告に到達したので、ここに被告は原告に対し本件土地を代金坪当り金八千八百円で売払う旨の契約が成立し、原告は右土地の所有権を取得したものであるが、被告は右売買契約の成立を否認し原告の本件土地所有権を争うので、原告は被告に対し本件土地が原告の所有であることの確認を求めるため本訴に及んだと陳述し、

被告指定代理人は、主文第一項同旨の判決を求め、答弁として、原告主張の事実のうち原告がその主張の日に被告に対し本件土地の払下を申請したが、被告から右申請手続に不備があると指摘されたので、原告主張の日に追加申請書を提出したこと、その後原告と被告の担当係官との間で右払下代金の件で交渉が重ねられたが、被告がその予定価格を坪当り金八千八百円と内示したのに対し、原告はその減額方を申出で、その解決が遷延していたこと、被告が昭和二十八年十二月一日附で原告に対し原告主張の文書(甲第二号証)を発したこと及び被告が原告主張のような同年十二月四日附書面を受領したことは認めるが、その余の事実は否認する。国が国有財産法(昭和二十三年法律第七十三号)にいわゆる普通財産を随意契約により売払う場合は、原則として、所管官庁において予算決算及び会計令第九十九条の二の規定に則り売払予定価格を決定し、これを予め払下申請者に内示して、その意見の調整をはかり、右申請者に異議のないことを確認したうえ、普通財産売払決議書を作成して、売払条件を決定し、その後右売払条件に基いて申請者との間に売買契約を締結し、同時に同令第六十八条、第六十九条の規定に則り契約書を作製することになつているところ、原告の本件土地の払下申請については、被告は同令第九十六条第十九号及び第二十二号の規定に則り原告に対し本件土地を随意契約により用途指定のうえ売払う方針を立て、その売払予定価格を坪当り金八千八百円と定め、これを原告に内示してその意見を求めたところ、原告はこれを不満として長らく応諾の回答をせず、徒に日時を遷延せしめるばかりなので被告は本件土地の処分方針にも支障を来すところから、昭和二十八年十二月一日附の原告主張の文書(甲第二号証)で原告に対し右予定価格について異議があるかどうか最終的に回答を求めたものであつて、右は売買契約の申込ではなく、売払契約締結前の準備行為の一環であるにすぎない。しかして原告の本件土地の払下申請についてはその後普通財産売払決議書の作成もなく、被告は原告に対する本件土地の売払を取り止めたものであつて、原告と被告との間には右土地の売買契約は締結されなかつたものであると陳述した。

<立証 省略>

理由

原告が昭和二十八年二月二十二日被告に対し本件土地の払下を申請し、被告から右申請手続に不備があると指摘され、更に同年十月三日追加申請書を提出したこと、その後原告と被告の担当係官との間で右払下代金の件で交渉が重ねられたが、被告がその予定価格を坪当り金八千八百円と内示したのに対し、原告がその減額方を申出で、その解決が遷延していたこと、被告が昭和二十八年十二月一日附で原告に対し原告主張の文書(甲第二号証)を発したこと及び原告が同年十二月四日附で被告に対し原告主張の書面(甲第三号証)を発し、右書面がその頃被告に到達したことは当事者間に争がない。

そこで原告は被告は右昭和二十八年十二月一日附文書(甲第二号証)をもつて原告に対し本件土地売払の申込をしたものであると主張するので、この点について考えるに、証人里村敏(第一、二回)、西村三治郎の各証言及び成立に争ない甲第二号証記載の文面を綜合すると、国が国有財産法にいわゆる普通財産を随意契約により売払う場合は、原則として、所管官庁において予算決算及び会計令第九十九条の二の規定に則り売払予定価格を決定し、これを予め払下申請者に内示して、これに異議があるかどうかその意見を徴し、右申請者に異議のないことを確認したうえ、普通財産売払決議書を作成して、売払条件を決定して、売払条件を決定し、その後右売払条件に基いて申請者との間に売買契約を締結し、同時に同令第六十八条、第六十九条の規定に則り契約書を作製することになつていること及び原告の本件土地払下の申請については、被告は同令第九十六条第十九号及び第二十二号の規定に則り原告に対し本件土地を随意契約により用途指定のうえ売払う方針の下に、その売払予定価格を坪当り金八千八百円と定め、これを原告に内示して、異議があるかどうか意見を求めたところ、原告はこれを不満として応諾の回答をしなかつたので、被告は昭和二十八年十二月一日附で右甲第二号証をもつて原告に対し右予定価格について異議があるかどうか最終的に回答を求めたものであることが認められ、以上認定の事実に徴すれば被告は右予定価格に基いて普通財産売払決議書を作成すべきかどうか決定するについて原告の意向を斟酌するため、その準備行為の一環として原告に対し右文書をもつて右予定価格について異議があるかどうかの意見を求めたにすぎないものであつて、これによつて本件土地売払の申込をしたものではないと認めるのが相当である。したがつて原告が右甲第二号証に対し甲第三号証をもつて被告の内示した右予定価格に異議がない旨回答しても、これによつて直に本件土地について売買契約が成立したとはいえないこと明らかである。原告代表者河村文輯の本人尋問の結果(第一、二回)中右認定に副わない部分は措信しがたく、その他本件口頭弁論に現われた全証拠方法によつても原告主張のような本件土地売買契約が成立したとの事実を認定することができない。かえつて成立に争のない甲第四号証及び乙第二号証並びに前顕里村証人の証言(第一、二回)によれば、その後被告は原告の本件土地払下申請について売払契約締結の前提となるべき普通財産売払決議書さえも作成せず、原告に対する本件土地売払を取り止め原告との間に本件土地の売買契約を締結するに至らなかつたものであることを認めるに十分である。よつて、被告から本件土地を買受けたことを前提とする原告の本訴請求はその余の点について判断するまでもなく、理由がないこと明らかであるから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八十九条を適用し主文のとおり判決する。

(裁判官 輪湖公寛)

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